ここで希望についてこれまでに心理学で研究されてきた概念をまとめてみましょう。
主体性と道筋思考
希望は「目標」、「道筋」、「主体性」によって成り立っているというのが、希望研究の第一人者スナイダーの理論です。[1]Snider, C.R. (2000) Hope theory: Rainbows in the mind. Psychological Inquiry, 13, 249-275.
希望にあっての「目標」については大まかなことはどの読者にもたいてい想像がつくのでここでは詳細を割愛することにして、「道筋」または道筋思考というのは、目標の達成に向かってどのような道筋で進んで行くかを考え計画するというものです。多くの場合目標達成は容易ではなく、何かしらの障害が横たわっているのが普通です。そこでそれらの障害をどうやって乗り越えるのか、克服、または迂回する道筋を見出して行く、それが希望の一つの働きだと言うわけです。
また、障害物の有無とは別に、多くの場合、一足飛びに目標達成に至るのではなく、そこに行くためにまず目先の手段から始めて、小目標を達成していく必要があるでしょう。人はこうして手段と目標の連鎖を築き上げているものです。[2]Kruglanski, A. W., Shah, J. Y., Fishbach, A., Friedman, R., Chun, W. Y., & Sleeth-Keppler, D. (2002). A theory of goal systems. In M. P. Zanna (Ed.), Advances in experimental social … Continue reading
「主体性」は行為主体性とも言い、英語ではagencyと言います。スナイダーはこれをゴールに向かうエネルギー、または目的達成のために筋道を使えると自覚する能力と考えています。特に障害物に遭ったときに、それを目標に向けて超えて行くべく動機の矛先を向けるのはこの主体性の働きだと言います。
Agencyという言葉は西洋では大変重要な概念を表しています。というのはそもそも人は自ら何かを欲し、自らの意志を発動して目的を持ち、行動を表すというのが、人の本質として西洋では捉えられていいるからです。一方日本ではすべての場面でそのような主体的なあり方でなくてもやっていけるので、主体性を持つ人を、特別視するようなところがあります。
これまでに述べてきた統制の所在が自分の内にあるということと深く関係しているとも言えます。定義から言って集団主義の場合は、統制の所在が外にあるので、各人の主体性というものが弱くなりがちです。
こうして主体性と道筋思考の共同作業によって、何かを「するぞ」という目標達成に向かう道を整えて、その人の内で心理的・物理的資源を目標達成に向ける流れを作るのです。このように障害物を超えてエネルギー全体の流れを統合して作りあげていくのが、希望の働きと言えます。 [3]See Edwards, L. M. & McClintock, J. B.(2018). A cultural context lens of hope. In M. W. Gallagher and S. J. Lopez (Eds.). The Oxford Handbook of Hope (pp. 95-104). Oxford, England: Oxford … Continue reading
参照
↑1 | Snider, C.R. (2000) Hope theory: Rainbows in the mind. Psychological Inquiry, 13, 249-275. |
---|---|
↑2 | Kruglanski, A. W., Shah, J. Y., Fishbach, A., Friedman, R., Chun, W. Y., & Sleeth-Keppler, D. (2002). A theory of goal systems. In M. P. Zanna (Ed.), Advances in experimental social psychology, Vol. 34, pp. 331–378). Academic Press. |
↑3 | See Edwards, L. M. & McClintock, J. B.(2018). A cultural context lens of hope. In M. W. Gallagher and S. J. Lopez (Eds.). The Oxford Handbook of Hope (pp. 95-104). Oxford, England: Oxford University Press. |