将来そのものを志向しない(4)周囲による統制

自然や周囲が自分の行動をコントロールする

集団主義や循環的時間の心の構造を作っている共通の要素は、周囲の人々や状況に自分を適応させることを優先する、それらに対して所属し、一体化することを自ら欲し、自分をそこに差し出すということです。これは誰かに支配されているというわけではないのですが、周囲に従い所属することでもたらされるグループや属する自分のメリットを得ようとするこの方法は、自らが意志を発動し周囲を変えていこうとする個人主義の考え方と大きく異なります。[1]Weisz, J. R., Rothbaum, F. M., Blackburn, T. C. (1984). Standing out and standing in: The psychology of control in America and Japan. American Psychologist, 39, 955-969.

このことを個人主義では「統制の所在」が自分の内にあり、集団主義では外にあるという言い方をします。そして次のような理由で、この統制の所在が大きく人の未来志向か現在志向かを左右するという見方をすることができます。[2]Lyu, H., Du, G & Rios, K. (2019). The relationship between future time perspective and self-esteem: A cross-cultural study of Chinese and American college students. Frontiers in Psychology, 10, … Continue reading

もし自分の内にこの統制の所在があれば、「自分が努力すれば成功を結果として見ることができる」という信念と行動パターンが生まれます。そこで未来を見て進んで行くということになります。ところが日本人は一般的に統制の所在が自分の内にはなく、あるいはそれを良しとせず、外なる環境(会社、「世間」、仲間内)にそれを置く性質があります。ですから「出る釘は打たれる」という言葉のようになることは求めず、むしろその環境に適応して正当に所属しようと努めることが行動パターンとなるのです。そうすると努力して成功を勝ち取るべく未来志向となるよりは、自分とつながる「外的な」ものへの所属に日々、現在志向で力を注ぐことになるというわけです。

これらは自分というものの捉え方についての、文化的なものの見方違いですが、実際、未来志向や現在志向、過去志向というものはその人が自分をどんな者と捉えているかというアイデンティティーに深く関わっていると言えると結論づける研究者もいます。[3]Seijts, G. H. (1998). The importance of future time perspective in theories of work motivation. The Journal of Psychology, 132, 154-168.[4]Vazquez, S. M. & Rapetti, M. V. (2006). Future time perspective and motivational categories in Argentinean adolescents. Adolescence, 41, 511-532.

こうした文化的な傾向というものはかなり根深いので、若者の国際調査において目立った差があるというのも理解できるものです。上に掲げた文化原則の他にも、社会における経済格差、家庭における受け入れ・支援・投資なども、未来志向の度合いに影響するという研究結果があります。とにかく、日本人においては、将来そのものを志向しない傾向というものがあるのです。これが閉塞感に影響を及ぼしている可能性を見なければなりません。

ただ一言だけ、ここでお伝えしておきたいのは、わたしは決して個人主義を礼賛しているものではないということです。個人主義には個人主義の問題が多くあることはよく知られています。集団主義でもなく、個人主義でもない在り方があるはずであり、そこにあるよりよい生き方を模索しているのです。

参照

参照
1 Weisz, J. R., Rothbaum, F. M., Blackburn, T. C. (1984). Standing out and standing in: The psychology of control in America and Japan. American Psychologist, 39, 955-969.
2 Lyu, H., Du, G & Rios, K. (2019). The relationship between future time perspective and self-esteem: A cross-cultural study of Chinese and American college students. Frontiers in Psychology, 10, 1518. 参照
3 Seijts, G. H. (1998). The importance of future time perspective in theories of work motivation. The Journal of Psychology, 132, 154-168.
4 Vazquez, S. M. & Rapetti, M. V. (2006). Future time perspective and motivational categories in Argentinean adolescents. Adolescence, 41, 511-532.