将来そのものを志向しない(3)循環する時間

循環する」時間

さらにこれに関して面白い考え方があります。個人主義の文化では過去から未来へと直線的に伸びる時間に合わせて「成長」していくという成長軌道が想定されているのに対して、集団主義文化の中では循環時間というか、四季のように繰り返して移ろう「変化」への適応が尊ばれるというものです。[1]Yamada, Y. & Kato, Y. (2006). Images of circular time and spiral repetition: The generative life cycle model. Culture & Psychology, 12, 143-160.四季の他にも、りんごの木に実がなり落ちて次の養分となる、などの自然の生々流転のサイクルを基とする時間という考え方で、そのサイクルには生と死を含んでおり、こうした日本人の自然観、美観については話題になることがありますね。

そしてこの考え方は個人という独立した存在に焦点を当てるよりも、所属する自然環境、背景、ひいては集団や他者との関係を中心に考えるものです。これと同様に、集団主義では人的な周囲の環境の持つ状況や背景への適応過程を尊ぶ姿勢と、自然環境への(支配ではなく)適応を尊ぶ姿勢に、心理的に共通のものが見られるとする人もいます。[2]Weisz, J. R., Rothbaum, F. M., Blackburn, T. C. (1984). Standing out and standing in: The psychology of control in America and Japan. American Psychologist, 39, 955-969. どちらにしても、直線的時間の中にいる場合は「未来」に向かって進んで行きますが、循環的時間の中ではそうではなく、周囲の状況に合わせて「現在」が繰り返し現れ移ろうという考えです。

このことからも未来志向という点では個人主義の方が強いということになります。また発達や成長に関する目的意識が尊ばれるのも個人主義の方で、変化する環境への適応を重視する集団主義文化では、個人の目的や成長は比較的重要視されないというわけです。現在・未来への志向と、周囲への適応・個人の目標達成のどちらに焦点を置くかということの間に、何かしらの関係があるということが見えてきました。

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参照

参照
1 Yamada, Y. & Kato, Y. (2006). Images of circular time and spiral repetition: The generative life cycle model. Culture & Psychology, 12, 143-160.
2 Weisz, J. R., Rothbaum, F. M., Blackburn, T. C. (1984). Standing out and standing in: The psychology of control in America and Japan. American Psychologist, 39, 955-969.