内輪グループへの所属が第一
日本人また広くは東アジアの人々は自己批判が強いことが知られています。このグラフからは特に日本人のそれが強いことがわかります。さらに詳しく言うと、内輪の所属する仲間のうちにあって競争の無い状況では自己批判的だけれども、外部の人と競う場面にあっては自分の能力や資質を高く評価する傾向にあるとの研究結果があります。[1]Takata, T. (2003). Self-Enhancement and Self-Criticism in Japanese CultureAn Experimental Analysis. Journal of Cross-Cultural Psychology, 34, 542-551.わかる気がしますね。
さて、実はこの自己批判、自分をおとしめているようで、実は東アジア流の、良い自分であるための方法であるとする考えがあります。[2]Hamamura, T., & Heine, S. J. (2008). The role of self-criticism in self-improvement and face maintenance among Japanese. In E. C. Chang (Ed.), Self-criticism and self-enhancement: Theory, … Continue readingどういうことでしょうか。東アジアでは良い自分であろうと努め、また良い自分であるための方法は、「顔」を維持することだと言うのです。つまり周囲の人々から良いと認められ、よい評価を得ることであると。
日本人の自己批判を研究した北山、マーカスらによると、関係や社会に所属し適合するという大事な目的のために、人々が感じ持っている共通の理想の標準に照らして、適合しない自分を認め、それを自己批判する、と言うのです。その反省が人々との関係における自己改善になっている。だから自己批判と反省はその社会やグループへの所属感を確認する行為だというわけです。[3]Kitayama, S., Markus, H. R., Matsumoto, H., & Norasakkunkit, V. (1997). Individual and Collective Processes in the Construction of the Self: Self-Enhancement in the United States and … Continue reading
「独立した個人」でなく「つながった者」
平たく言うと、「出る杭は打たれる」原則です。自分が所属するグループの構成員は個々を主張するものではなく、皆平等でつながっている全体の一部。だから個の内にある宝を耕作するよりも、全体の理想に照らして自己を否定し、「わたしはしがない全体の一部です」、と言う。目立たないように、調子に乗っていると言 われないように、憎まれないように…。
これは前の投稿に書いた、「統制の所在」に関連した話です。外に統制の所在がある日本人は、グループへの所属が高い目標であり、「統制」の権威はグループにあり、それに照らして、「自分は足らない」と言うことで、グループへの帰属を深める。人の基本的な有りようが独立した個々と言うより「人とつながった者」であるからです。自分自身をグループの構成部分ととらえる捉え方です。
こうした姿勢は日本人の美点と国際的に見られる、規律の良さにつながっているかもしれません。飛び出ないのですから。会社や学校で、有無を言わさず一律に全員でこれをやりなさいと言われてやるなどの管理主義も、この集団的な「人とつながった者」としての人の在り方が基本にあると言えます。また多くの人がそのように集団に属して自己批判して安定を得ているときに、そのような生き方に順応できなくて悩む「個」の人も出てきます。このセクションの冒頭の内閣府のグラフで、日本人が自己肯定感が低いということの背後には、こうした社会的な病弊も見てとれるように思います。
参照
↑1 | Takata, T. (2003). Self-Enhancement and Self-Criticism in Japanese CultureAn Experimental Analysis. Journal of Cross-Cultural Psychology, 34, 542-551. |
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↑2 | Hamamura, T., & Heine, S. J. (2008). The role of self-criticism in self-improvement and face maintenance among Japanese. In E. C. Chang (Ed.), Self-criticism and self-enhancement: Theory, research, and clinical implications (pp. 105–122). |
↑3 | Kitayama, S., Markus, H. R., Matsumoto, H., & Norasakkunkit, V. (1997). Individual and Collective Processes in the Construction of the Self: Self-Enhancement in the United States and Self-Criticism in Japan. Journal of Personality and Social Psychology, 72, 1245-1267. |