他者に貢献すること
自分自身のためより他者や社会のために貢献する方が充実するというのは興味深いですね。個人主義のアメリカのような国でも、環境運動のボランティアなど、社会のために身を投じる人が充実感を感じるということは報告されています。この他者貢献、つまり他の人のためになることをするということが、人の深いアイデンティティーとして有り得るということが考えられます。一方自己実現がアイデンティティーの大きな部分であることは疑いがありません。
それでは、日本の若者に充実感が低いというテーマについて、仕事場でなぜそうなのかを考えてみます。仕事場では社会貢献とは大野氏の言う③の使命感にあたるところですが、まずこの気持ちが持てる人の数自体が比較的少ないと考えられます。実際、ベネッセの調査では、社会貢献を重視するグループの人数は約10人に1人でした。
また先ほど他者貢献は本来充実感をもたらすアイデンティティーになり得るのではないかと書きましたが、これに関連して、内閣府の調査を見ると、ボランティアで人の役に立つことが充実感につながることは世界中の現象ではないことがわかります。特に日本においてそれが低いのです。そのような奉仕をするときに充実感を感じると答える人は日本で41%、アメリカでは倍の83%です。日本の高校生がボランティアを好きではないという他のデータもあります。アイデンティティーの理論からすると、他者貢献が日本人の中でアイデンティティーとしてヒットしにくい、もしくは若い世代があまりボランティアというもの自体を経験していないのではないかということも考えられます。
社会貢献に関心が薄い日本人の若者の姿は、日本財団の2019年版「18歳意識調査」[1]https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/11/wha_pro_eig_97.pdfという国際比較データでも顕著に表れています。ただ、2011年から2016年の5年間に、これを人生目標とする日本の高校生の割合が10%増えたという報告[2]http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/114/があり、それは明るい話題です。