ここに内閣府の同調査で日本の若人が他国と違う傾向を示していた質問項目の特徴をまとめてみると、次の4つが目立ったものでした。①「進学」「就職」など将来の生活が心配、②「将来、多くの人の役に立っている」などの将来志向そのものが弱い、③「自分には長所があると思う」などの自己肯定感が弱い、そして④趣味を除いて何をしているときも、充実を感じない。
実際に、「将来への希望が弱い」ことについて関連する文献を探究していくと浮かび上がってくる概念に、この内閣府調査に出てきて上にまとめた4つの特徴は含まれています。そして、ここに出てきたいくつかの項目は、実は互いに無関係ではないことを、それらの先行研究が示唆しているのです。それらを一つひとつ見ていきたいと思います。
将来の生活が心配
前述の2018年の内閣府調査には14項目にわたって彼らがどのくらい心配しているかを問う質問が並んでいました。その中で日本の若人の心配の度合いが他国に比べて強い項目は、「進学」「就職」「仕事」「お金」「健康」「自分の将来」の6つでした。
これらの項目だけについて言うと、どれも韓国が最も心配の度合いが高く、日本はそれに続く高さでした。これらのテーマについて、欧米各国の若人に比べて韓国や日本の若人が特に不安を抱いているということです。ただ不安イコール希望がないというわけでもなく、希望についてはグラフで見たように、日本の方が低いのです。
韓国の事情
なぜ不安になるのかが問題なわけですが、韓国と日本が同じ理由や仕組みからであるとは一概に言えません。ただ、韓国では日本よりも受験競争が厳しく就職が難しいという事情があることは報道により皆さんもよくご存知だと思います。
また、崔勝漠氏によると、韓国では日本と同じく新規学卒者中心の雇用管理、年功型賃金、定年があるけれども、終身雇用制はないのだそうです。ある程度転職の経験がある者が能力がある者と見なされる社会的認識があるため、中途採用となっても長期的損失が比較的少ないことから、企業間での移動も頻繁に見られるようです。[1]崔勝漠、『雇用慣行システムの日韓比較』.立教経済学研究, 第49巻2号、97-110
わたしは韓国の事情に詳しいわけではないので、その不安や希望についての分析は他に譲りたいと思います。ただ、終身雇用の有無は随分大きな点であり、後ほど日本の終身雇用制度とそれを支える文化的心理について触れたいと思います。 ここでは、上に出た心配する項目の多くは将来の生活の安定に関わっており、経済的安定を求める心理は大きく作用していると言う一般の見方は否定できないことだけけ押さえておきたいと思います。
参照
↑1 | 崔勝漠、『雇用慣行システムの日韓比較』.立教経済学研究, 第49巻2号、97-110 |
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